読売新聞 「介護現場 働く人にもケア」

H28.4.7(木)掲載 「ありすの杜きのこ南麻布」取材記事
記事内容は、紙面写真の下の文章をお読みください。

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 人手不足に悩む介護現場では最近、「人材の定着」が重要なテーマになって
いる。業界では毎年約30万人も就職するのに、すぐ辞める人が多いことが、
人材難を招いているからだ。待遇だけではなく、人間関係や施設運営のあり方を
理由に職を離れる人も目立ち、働く人へのきめ細かいケアが求められている。

年22万人離職

認知症女性に
 「おはようございます。朝ですよ。起きましょうか」午前7時半。東京都港区の
特別養護老人ホーム「ありすの杜きのこ南麻布」。昨年春からここで働き始めた
市村研人さん(21)は個室のカーテンを開け、入居の高齢者に声をかけていく。
 朝食の時間。認知症の女性の部屋に入り、女性の口元に薬を運ぶと、「そんな
もんいらん!」と激しいロ調で手を払いのけられた。
 「今は飲みたくないのかな」。とっさにそう考えた市村さんは、冷蔵庫から
好物のジュースを取り出した。差し出された紙パックを見て、女性は落ち着きを
取り戻した。薬もきちんと飲ませることができた。

自分の成長実感
 市村さんは、同ホームを運営する社会福祉法人新生寿会に就職するまで、
介護の知識や経験は皆無だった。都内の短大で学んだのは経営学。「やりたいこと
がなく、フリーターも覚悟した頃、大学でこの仕事を紹介された。祖父母は
好きだし、自分にもできるんじゃないかと思った」という。
 1週間の座学のあと、現場に配属。排せつや入浴の介助は経験を重ねるうちに
慣れたが、お年寄りとのコミュニケーションで壁にぶつかった。
 昨年11月の新人研修。利用者と1対1で会話する様子をビデオで撮影し、
先輩たちが、その映像を基にかかわり方を指導した。
 利用者に「お前に何が分かる」と、どなられた市村さんは戸惑い、作り笑いを
するほかなかった。「共感が足りない」と指摘され、「この仕事に向いていない
のかな」と落ち込んだ。
 辞めることも考えたが、「中途半端はいやだ」と三たび挑戦した研修で、自分の
かつての行動の間題点や今後の目標を文書にまとめて発表。「利用者の立場で
考えられるようになった」と褒められ、自分の成長に気付いた。「お年寄りの
思いをくみ、どう返すのかが課題。まだまだこれから」と市村さんは言う。

やりがい
 同ホームで職員教育を担当する原田まゆみさん(37)は、「最近、介護の
現場に入ってくる人は、資格もなく、何となくきた人が多い。食事や入浴、
排せつなどの介助の技術をただ教えるだけでは、辞めていく」と話す。
 2010年の開業当初は新人が次々と辞め、当時いた約60人の職員のうち7割が
去った。そこで13年から、新人の個性や能力を見極め、個々に指導方針を
立てた。あえて負荷をかけて成長を促すケースもあれば、基本的なあいさつ
から実践させた人もいる。その結果、その後の3年間で辞めた新人は3人だけ
だった。
 「職員にも『個別ケア』が必要。自信を引き出し、やりがいを持たせるには、
職員一人一人を大切にする姿勢が求められる」と原田さんは指摘する。
 職場リーダーの山下裕子さん(32)も「介護の仕事とは、人と人の付き合いを
つきつめること。その分悩んだり、イラッとしたりもする。若い人を青てるには、
ダメなところは受けとめ、頑張りは認めることが大事」と話した。