日本経済新聞で特集記事が連載されました。(2)人手不足の解消に一役

tokuyouni_sunde_02

東京の特養ホームに住んでみる -2-

認知症ケアの現場から

人手不足の解消に一役

留学生も入居者支える

 「あっという間に消えてしまった」
 ありすの杜南麻布南棟の施設長陳学貴(ちんまなぶ)さん(42)は苦笑する。
 東日本大震災から約1週間後、働いていた中国人留学生たち10人のうち8人が一斉に帰国した。中国の親から「放射線で東京は危ないからすぐに帰って」という電話やメールが連日来たからだ。
 だが4月に入り、通っている日本語学校の新学期が始まると、半数ほどが戻ってきた。徐々に正確な情報が伝わり、親も納得したためだ。
 デザインの勉強をするために昨春、北京から来日した李京(りきょう)さん(26)もその一人だ。中華料理店で働いていたが、2月末からありすの杜に来ている。多くの日本語学校の授業料は年間六十数万円。「高額なので生活費は自分で手当てしなければ」。留学生たちは親の負担が大きいと自覚し、アルバイトに精を出している。
 ベッドのシーツ交換や掃除、食器洗いが主な仕事だ。料理が得意な李京さんは10人の入居者グループの夕食も作る。傍らの職員は「とても料理が上手なので助かってます」と包丁さばきを見て喜ぶ。
 ホームを運営する新生寿会が留学生の採用を検討し始めたのは開設間もない昨年6月だ。「退職者が出始め、人手が欲しかった」と陳さん。そこへ、人材派遣で雇えばという話が持ち上がった。
 タイミングよく7月の入国管理法の改正で語学留学生が働きやすくなった。日本語を学ぶ就学生ビザを大学生などの留学生ビザに統合し、就労時間の上限が1日4時間から1週28時間になったのだ。
 これで週4日、昼過ぎから7時間の勤務ができるようになった。「4時間では短すぎて仕事にならない」と陳さん。法改正は留学生を増やす政府方針の一環だった。
 施設で入居者と接するうちに、高齢者ケアに魅せられて志望を変えた留学生がいる。大連市から昨春来日した潘琳琳(ばんりんりん)さん(25)だ。大学で経済学を学び、日本の貿易会社に勤務するつもりだったが、専攻を福祉マネジメントに変更した。
 「ここの認知症ケアはとてもいい。入居者と温かく接する姿勢が気に入っています。将来は福祉施設に就職したい」。認知症の祖母が入居していた中国の施設とは大違いだという。
 「認知症ケアの知識や技能はきっと母国で役に立つ。中国は老年社会になろうとしているのに、認知症の知識はまだまだですから」。親は進路変更に反対したが、決意は変わらない。
 離職者が多く、人手不足が続く高齢者施設。中国人留学生をこれほど積極的に採用している例は珍しい。新生寿会では、留学生を法律が定める運営基準の人員に含めていない。だが、彼らが掃除などをこなしてくれれば、職員はケアにより専念できる。
 理事の篠崎人理さん(61)は「日本人より気配りできる学生もいて、入居者に評判がいい。本来なら欧州のように外国人を労働者としてきちんと受け入れ、介護に従事してもらうべきだ」と話す。

語学留学生

日本語学校は全国に約450あり、2010年の学生は約4万6千人。うち、中国から約3万2千人が来日。10年前より1万1千人増えている。留学生は法務省の許可を得て就労できる。飲食店やスーパーでの勤務が多い。風俗営業やその関連職は禁止されている。