日本経済新聞で特集記事が連載されました。(11)看護師に「専門」から脱皮促す

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東京の特養ホームに住んでみる -11-

認知症ケアの現場から

看護師に「専門」から脱皮促す

求められる生活手助け

 ありすの杜南麻布南棟の各階ユニットで時折、食器を洗ったり洗濯物をたたんだりする看護師を見かける。テーブルで認知症の入居者の横にすわり談笑する光景も。白衣でなく普段着のシャツやジーパン姿ということもあり、介護職員との見分けがつかない。
 運営する新生寿会は「ここは病院や従来の施設と違い、自宅の延長のように普通の暮らしを送るところ。看護師も介護職とともに日常生活の支援者として働いてほしい」という方針を打ち出している。
 看護師の橋野聡子さん(33)は「認知症の方は自分で体の具合を訴えることができない。私たちが、健康状態の変化をしっかり把握しようと思えば、食事など日々の生活を共にすることが大事」と施設の方針を前向きに受け入れている。
 昨秋から勤務している看護師は「入居者と普通に話すのは難しい。やっと最近慣れてきた」と打ち明ける。
 ただ、特養でのこうした「専門職からの視点の切り替え」に、戸惑う看護師もいる。
 採用面接で施設から、まず「医療だけでなく、自分でできる仕事を見つけてください」と言われる。多くの看護師は驚き、さらに、昼食時の休憩場所と時間が特に設定されてないことで面食らう。診療所や病院、あるいは他の施設と違うからだ。
 「休憩はユニットの中でお茶を飲んだり、工夫しては」と施設長の陳学貴(ちんまなぶ)さん(42)。
 といっても、「お年寄りから声をかけられれば、話し相手にならざるをえない。完全な休憩とは程遠い」「休憩場所がないと気分転換できない。独立した部屋を要望したが駄目だった」と不満の声も聞かれる。
 看護師の人材紹介をしている毎日キャリアバンク(東京)の宮本亜由美さんは「医療と介護が分かれていないので、『ありすの杜はとても変わっています』と、就職希望者に必ず説明する」と話す。
 今春辞めたある看護師は「医師の指示や病院が決めた段取りで業務をこなしてきた。自分からお年寄りに声をかけ、家事のようなことをやれと言われても...」と話す。個人的事情もあって、この1年余りの間に全館で8人が退職した。
 病院や施設での看護師不足は全国的に続いているが、ありすの杜には「認知症ケアの先駆性」故の事情が潜んでいるようだ。
 では、法律ではどうなっているのか。看護師の業務を定める保健師助産師看護師法の第5条。「診療の補助」と並んで「療養上の世話」を挙げており、点滴や服薬管理など医療関連業務だけが看護師の仕事ではないとしている。
 看護師の土森美由紀さん(42)は「ナイチンゲールは、身の回りの環境の改善や日常生活を手助けするのも看護師の仕事と言っている」と、看護の精神を強調する。
 だが、専門性へのこだわりを持つ看護師が多数派なのが現実でもある。介護職への痰の吸引や胃瘻介助が解禁され、介護保険で訪問看護師との連携がもくろまれているが垣根は高い。

看護師不足

看護師はこの数年、新卒者が約5万人、再就職者が約10万人ずつ増えているが、退職者が多く医療機関などの需要を満たしていない。昨年11月の「第7次看護職員需給見通しに関する検討会」の報告書では、この12月末に全国で140万4300人の需要に対して、5万6千人の不足が見込まれている。