日本経済新聞で特集記事が連載されました。(10)新人の会話 録画し検証

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東京の特養ホームに住んでみる -10-

認知症ケアの現場から

新人の会話 録画し検証

「共感」で入居者和らぐ

 認知症ケアの「極意」を職員に聞いて回ると、「ビデオ検討会で理解が深まった」との答えが一様に返ってきた。検討会は、ありすの杜南麻布南棟を運営する新生寿会が新人職員研修に組み込んでいる。今年も1日から始まった。
 まず、新人職員が居室で入居者と1対1で関わっている状態を撮影。その動画を見ながら指導者が講評する。
 「自分の考えは脇に置いて。まず、お年寄りのつらい気持ちに共感しないと」
 施設統括の原田まゆみさん(32)の強い言葉で新人職員たちの緊張感が一気に高まる。次いで、正垣幸一郎さん(38)が諭すように話す。
 「この方は恥ずかしい思いをしたと言われたが、どんな場面だったのか、聞いてあげればよかった。誰にも言えなかったことを話してもらえるようになってほしい」
 いずれも入居者とのコミュニケーションの取り方を指摘する。認知症ケアの出発点はお年寄りとの心の距離を縮めることにあるようだ。
 画面は、職員の小林佑介さん(29)と向き合うパーキンソン病もあるA子さん(71)。5分間の画面の中でA子さんは、訛りが気になり、恥ずかしい思いもしたと話す。小林さんが「そうは思わないですよ。方言っていいですよね」と答えたが「自分の考えだけでなく、その背景などを考えねば」と指摘されたのだ。
 翌日は、土森美由紀さん(41)も加わる。お年寄りに次々質問する職員の画面を見て、「過去の事実を問うより、それにまつわるご本人の感情や思いを話してもらう方が重要です」とピシャリ。
 次の職員には「笑いで間を取る必要はない。お年寄りの不安を受け止められるようになるのが研修の目的です」。
 新人たちも同期生の画面に物申す。「アイコンタクトができていない」「お年寄りのゆったりしたペースに合わせていない」などなかなか辛辣な発言が続く。そして、発言者自身も同じミスを犯す。頭では分かっているが体がまだついていかない。仲間からの言葉は身にこたえるようで深くうなずく人が目立つ。
 本人たちもよく承知している。「お年寄りの言葉に共感する態度が足りなかった」「会話に気を取られ、相手のしぐさをよく見ていなかった」としっかり反省の弁も。向き合う位置や敬語の使い方などの意見が飛び交う。わずかな時間の画面なのに、観察は細かく議論の中身は濃い。
 検討会の冒頭、正垣さんが「4つの基本的姿勢ができているかがポイント」と念を押した。4月の研修で掲げた①お年寄りに誠実に敬意を持って②自分のニーズや感情を脇に置く③あるがままを受け入れる④共感する ---である。新生寿会が導入している「バリデーション」というコミュニケーション法でうたわれていることだ。
 正垣さんと土森さんは「バリデーション・ティーチャー」という「免許皆伝者」でもある。国内には8人しかいない。
 認知症のお年寄りの症状は百人百様。気持ちを受け入れて信頼関係を結び、共感を築くことが大切なようだ。

バリデーション

主にアルツハイマー型認知症の高齢者を「正当に評価(バリュー)」しようというコミュニケーション法。米国人のナオミ・フェイルさん(79)が創案し、欧米などの多くの施設で導入。日本では2006年に公認日本バリデーション協会が設立され、研修を受けた実践者(バリデーション・ワーカー)が約400人いる。