第14回アジア-パシフィック・アルツハイマー学会

タイでの学会に招かれたときの発表の報告です。私たち「きのこグループ」の活動を凝縮した、まさに「エッセンシャル版レポート」とも言えますのでどうぞご一読ください。

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きのこグループ
社会福祉法人 新生寿会

総社市山手福祉センター
施設長  西谷 達也

「The 14th Asia-Pacific Regional Conference of the Alzheimer`s Disease International」
Thailand Dementia 2011

 

タイで開催された『第14回アジア-パシフィック・アルツハイマー学会』に行ってきました。
 招待状は、タイの主催者であるDr.SirintornからDr.ken Sasakiに届いたのですが、佐々木院長の都合がつかなく、代理として西谷が行くことになりました。

ADI Caregiver Jan 11-12, 12 161 Dr.Sirintornは、以前エスポアール病院に訪れ、「きのこグループ」における認知症ケアの実態をその目で見られ、是非、タイ及びアジア各国に「きのこグループ」の先進的なケアを紹介したいという意図で今回の要請になりました。
 学会の日程は1月11から13日で、西谷のSpeech「The New Ere of Dementia Care in Asia:The Japanese Experience 」は12日の13時からの1時間、全体セッションで行われました。まさに特別待遇で、主催者側の期待が伝わります。
 その講演に先立ち、11日は同時開催しているタイ国での「認知症のパブリック・フォーラム」でも講演しました。対象者は、厚労省等政策関係者、看護師さん等医療関係者、家族の方々、一般の方々です。ちなみに本会の対象者は医者や教授ばかりです。
 タイの認知症の現状は(アジア全体がそうなのですが)、社会の高齢化とそれに伴う認知症高齢者の増加に危惧を抱き、関心も高まっています。ケアの現状 は、専門病院や老人保健施設、グループホームなどはなく、今からやっと在宅介護に向けたデイサービスなどを立ち上げようかというところです。日本の約25 年程度前だという印象です。しかし、我々が北欧諸国から学び取り入れたのと同様に、我々からさまざまなものを取り入れることにより、その25年の差は今後 一気に縮むでしょう。今回は我々の経験を活かし、その橋渡しとなるべくシンポジウムでお話ししました。
 いずれの講演後も聴衆者に取り囲まれ、賛辞や質問を受けました。是非一度日本に行ってケアの実際を見てみたいということや、シンガポール、台湾の医師 は、是非我が国でも公演を行って欲しいとのことです。質問の多くは日本の制度や施設整備のことが多く、非常に熱心で真剣でした。タイの国全体も発展途上国 ならではの夢と活気に満ち溢れていました。このままでは、経済同様、追い越されるのもそう遠い日ではないのかも知れません。

《 講演要約 》

 さて本日は、「日本における認知症ケアの取り組み」ということを話しにまいりました。
私は、認知症では日本で最も有名であり、日本各地に病院、特養、老健、ケアハウス、グループホームなどを運営し、先駆的な取り組みで知られる『きのこグループ』の一員として約20年間現場で働いております。
 まず、グループの紹介共々、日本における認知症ケアの現状をご説明いたします。
日本は、世界に誇る長寿国ですが、その反動、及び近年の少子化に伴い、超高齢化の国でもあります。当然、認知症の症例数も年々増加傾向で、その数は、現在約250万人とも言われており、認知症への関心は年々高まっています。

【Into type―Home type】

 日本では認知症になられた方は、大きく2つの道が選べます。一つは入所型。もう一つは在宅型です。
 入所型は認知症の方を長期に預かりケアします。その代表が「病院」で、主に随伴症状などが激しい方を緊急で扱います。検査や薬物などの調整など医学管理が主体です。
 我々のエスポアール病院は、日本でも代表的な認知症の専門病院です。しかし日本でも認知症専門の病院は数が少なく、多くは精神神経病院、あるいは内科病院などで処遇されます。
 症状がある程度落ち付きますと、「老人保健施設」で処遇されることがあります。制度的にはリハビリテーション特化型で、病院と在宅などのかけ橋の役割りを担います。
 「老人ホーム」は元々、さまざまな理由で、在宅で過ごすことのできない高齢者が終の棲家として暮らす場所です。最近は認知症の方も多くここで暮らしています。
 「ケアハウス」や「高齢者専用アパート」も、元々は高齢者専用の住まいですが、近年認知症の方も多くおられます。
 「グループホーム」は、認知症専門の小規模住宅です。8名~9名の認知症高齢者がここで暮らしています。認知症高齢者の増加と共に、このように専門的で地域に密着した、小規模な施設が今や日本の主流となっています。
 以上が入所タイプと呼ばれる施設の概要ですが、急速な高齢化と、それに伴う認知症高齢者の増加に制度や環境が追い付いていないのが現状です。結局多くの認知症高齢者は在宅でケアされています。この表は認知症高齢者の数と入所できる数のグラフです。
ご覧のように、多くの方が入所できず自宅でケアされています。必然的にケアは、在宅で暮らす認知症高齢者の支援に重点が置かれていきます。
 さて私は、現在、その在宅で暮らす高齢者支援のための施設で働いています。現在、私の勤めている施設外観です。この施設は、いわゆる公設民営で、日本では最近このようなスタイルが増えてきました。市から委託を受けることが企業のステイタスにもなります。
 在宅向けのサービスは、「デイサービス」、「ショートステイ」、「ホームヘルプサービス」などがあり、私の施設などはこれらのサービスが全て受けることができる「複合型施設」です。
 ここには、「デイサービス」、すなわち高齢者が日中ここで過ごされる場所があります。
定員は50人です。「デイサービス」は、先ほど紹介した、「病院」や「老人ホーム」、「グループホーム」などに併設されたものあります。定員も8人から100人など大小さまざまです。
 我々の施設では「ショートステイ」も行います。在宅で暮らすお年寄りを一時的に預かります。一泊2日の人や、一週間、長い人は2,3ヶ月利用します。また、利用の理由も、家族の介護疲れやリハビリ目的など、さまざまです。
 これは「ホームヘルプサービス」です。スタッフが高齢者のお宅へ職員が伺い、入浴や食事の介護を行います。
「配食サービス」です。高齢者のお宅へ食事を届けています。栄養指導や安否確認を行います。

 さて、このように日本では超高齢化の社会変化を受け、ケアサービスは施設ケアから在宅ケアに移行しつつあります。それに伴って、重度の認知症の方の在宅介護も増えてきました。
 認知症のケアは、我々の試行錯誤の結果、『如何にしてあたりまえの暮らしを提供するか』という概念に到達しています。それは、在宅の高齢者でも、病院などで暮らす高齢者でも、結局は「あたりまえの暮らしを大切にする」ということです。
 「ケアは、単に日常のお世話だけをするものではなく、その人一人ひとりの生活や人生をより豊かに、幸せにするためのものである」という基本姿勢です。 「問題解決のゴールは、あくまでもその人の人生をより良くするためのものであって、けっして、抑制したり、矯正するためのものではありません」
 そのために、我々には大切にしなければならないものがあります。

【Environment】

 まずは、「環境」です。一口に環境と言っても、多くのものがあります。空間、色、匂い、温度、風景、照明、家具などなど。高齢者一人ひとりが、その人生 を生きる上で、大切にされている価値観を尊重した環境作りに取り組んでいます。その人一人ひとりにとって、「居心地の良い場所」を提供しなければなりませ ん。これが我々のグループホームの画です。ご覧のように、豪華である、近代的であるというわけではありません。高齢者にとって住みよい、過ごしやすい、居 心地の良い場所の提供がとても大切です。
 これが我々デイサービスで、皆さんが普段過ごされる場所です。いわゆる「ユニットスペース」です。この他にも男性だけの部屋や寝たきりの方の部屋があり ます。普段いる場所と、食堂や喫茶、リハビリルームなどを分けています。メリハリをつけ、今自分が何をすべきか分かって頂くことも大切です。

【Work―Job,Chre,Taste,Hoby】

 さて、次に大切なものが、「役割」です。人はそれぞれ生きる上において、生きる役割を担っています。そのことが、すなわち「生きるあかし」でもありま す。仕事や育児はもちろん、掃除や洗濯、食事作りなど日常に則したことで役割を得る場合もあります。畑仕事、園芸や囲碁、将棋、手編み、ペットのお世話な どで生きていることを実感される場合もあります。大切なことは、おし仕着せではなく、人それぞれが自分で自分の役割を選択できる環境を整えることです。最 もいけないことは、認知症だからと言って、何も出来ない、何もさせないことです。
 これは当施設の食事風景です。バイキング形式にしたのは、自分で選ぶ、取る、食べる、片付けるという一連の役割を果たせるからです。このことにより、活 動性と達成感が得られます。ケアは単なる日常のお世話ではありません。スタッフと共に買い物に行き、食事を作り、一緒に食べるという光景が見られます。食 事は、単なる栄養補給ではなく、人生のよりどころでもあります。良い食事とは、「いつ、何処で、誰と、どのように食べるのか」を考えることです。これらの ことが、すなわち、認知症高齢者と「共に生きる」ということです。
 リハビリテーションなども同様の考えです。食事同様、さまざまなバリエーションを用意することが大切です。ある人は、作業療法、ある人は音楽で。ある人 は散歩などの日常の中から、またある人はゲームやレクリエーションの中から、その人に合ったアクティビティを行うことにより、自主性と持続性を養います。 もちろんなにより人の尊厳を生み出します。

【Person】

 さて、最後に大切なものは、これが最も重要なのですが、「人」との関係性です。先程の、「環境」や「役割」も、スタッフとの関係性なくして成立するもの ではありません。人は人との関係性なくして生きてはいけません。例えば、あるケアスタッフが、ある認知症高齢者を一人の患者、すなわち、認知症の症状やそ の問題となる行動のみに関心があり、そのことの改善や抑制ばかりに気をとられているとしたらどうでしょう。食事の量や栄養管理、排尿量や回数、睡眠時間な どなど、数値や頻度あるいは問題行動の有る無しによりケアを行うことになります。歳を取ることで、髪が抜け、目や耳が悪くなり、腰が曲がることと同様に自 然なこととして受け止める気持ちが必要です。歩行が出来なくとも、オムツをしていても、ケアスタッフのかかわり方や意識によって、幸せで豊かな人生は過ご せます。たとえ寝たきりになっても同様です。リハビリテーションや入浴、食事などすべてのことにおいて、何故このようなことを行うのかという意識や理念は とても重要なことです。
またそのことをケアワーカーは常に思い、説明もしなければなりません。それは、我々は専門家であり、それが我々の存在意義でもあるという自覚です。
 実践で最も重要なことは、コミュニケーションです。認知症高齢者の場合、その多くがコミュニケーションをとる困難さをスタッフは感じるでしょう。しか し、それは言語に頼ろうとするからです。認知症高齢者の場合、そのほとんどがアクションや行動として自己表現を行います。それを注意深く観察、洞察すれば よいのです。そうすることにより、実は問題とされていた、例えば徘徊などのような行動も、ケアスタッフへのメッセージとして捉えられます。
 「入浴したくない」という認知症の方がおられます。その理由を聞きますと、「その必要がないからだ」とおっしゃいます。不慣れなケアスタッフは、ここで 諦めたり、強行して入浴させるかの選択に迫られます。しかし、それは実はスタッフ自身が「入浴は清潔を保持するためのものである」というスタンスで臨んで いるからです。入浴には血行促進や肩こり、腰痛の緩和、食欲増進などに加え、ダイエットや便秘の解消、保湿効果もあります。
なによりリラクゼーション効果があります。このようなことを知識として知った上で、その人に合った入浴を勧めてあげることが必要です。熟練したケアスタッ フは、「最近足がむくんでいるとおっしゃってましたよね。お風呂でマッサージして、入浴後にクリームぬると効果てきめんですよ。後ね、入浴後においしい ジュースも用意していますから」と言うでしょう。このように、人とのかかわりは、すべてのケアの原点です。

 「環境」「役割」「人」とみてきましたがこれらはとても漠然としていて、一見やりにくそうなケアに思えるかも知れませんが、科学化や数値を根拠にすると そこには必ず合理性と画一性が生まれます。人が人をみるのがケアの本質であり、その基本理念は、どのような病状、症状、障害、状況であろうと人は、人とし て、あたりまえに、幸せに暮らす権利を有し、人としての尊厳を守られる必要があるわけです。
ADI Caregiver Jan 11-12, 12 063そのことを念頭に置けば、
カーテンを付け替える、照明のことを考えてあげる、
キッチンから美味しそうな食事の匂いや音がする、
食卓に花を飾る、
寝たきりで反応のない方にも「おはよう」などの声かけをする。
マッサージをしながらスキンシップを図る、などなど、
明日からでもできる、簡単なことは数多くあるのです。

以上で終わります。ありがとうございました。